開店と同時にどこからともなく言い争う声が聞こえる。
　最初、隣の店の壁越しに聞こえていると思っていた私は、別段気に留めるでもなくその声をＢＧＭに朝の忙しさに追われていた。
　配送品が届く曜日でもあり、バックヤードへ荷物を運び入れた途端ぎょっとすることになった。　なんと、例の怒号は隣の店から聞こえていたのではなく、自分の店のバックヤードから聞こえていたものだったのだ！　
　それとはなく聞き耳を立てる。　話しの内容までは聞き取れないが、どうやら店長とフリーターＡが壮絶なバトルを繰り広げている様子。

　　（くわばらくわばら。おいらは君子じゃね〜けど近寄らんとこ。）

　あと一ヶ月程で仕事を退職すると宣言したフリーターＡは、私用で一週間の休みを経て昨日仕事に復帰したばかり。　ここんとこいろいろ騒ぎを起こしてくれた彼女のこと、変に介入すると事態がこじれること請け合い。　で、知らん顔を決め込むことにしたのだ。（前回、かまわないでくれと言われたばかりだしね）
　・・・いいけど、裏（バックヤード）に入れんことには荷物が片付けられん。
　怒号がだんだん大きくなり、客席のあるこちら側にも聞こえるようになる始末。　いい加減切り上げてもらわないと・・・。

　やがて静かになり、いつ来たか判らなかったのと同じようにいつの間にかいなくなっていたフリーターＡ。　少しして店長が憔悴しきった様子で近寄ってきた。
　　店長　「Ａさん、もう終わり。」
　　しろ　　「は？」
　　　　　　「今日まで。」
　　　　　　「はぁ。　まぁ、辞めるって言ってたですからねぇ。　で、どうしたんです？　
　　　　　　朝っぱらから。」
　　　　　　「サラ金からお金借りなくちゃいけなくなりそうなのを、どうしてくれるのかって。」
　　　　　　「はい？？？　なんすか、それ？」
以下、店長の話を要約すると・・・、

　私用の一週間の休暇の理由がちょいと特殊だったのだが、その理由を店長が“言いふらした”せいで、みんなの態度が変わって店に出にくくなった。　で、結局公言してた一ヵ月後よりも早く退職しなくちゃならなくなったんで生活費に困る。　サラ金にでも金を借りなきゃいけないようになる、で、
　　どうしてくれるのか！？

　・・・だそうで・・・。
　私は白昼夢を視てるのか？　まるでヤ○ザの思考回路のような言動。　とてもハタチそこそこの娘っ子の発言とは思えない。
　　「確かに（理由を）話したけど、根も葉もないことを言い触らした訳じゃないし、第一、その事情を知ったのは私が一番最後で、Ａさん自身が他の人に話してるのに。」
　　「生活費に困るからサラ金って、彼女確か両親とも健在で、一人暮らししてるけど実家近いですよね。」
　なんか間違ってるぞ。　怒りや苦情の持って行き所が。
　辞めると公言したのは自分自身だし、原因も自分が撒いた種。
　　「つまりね、一か月分の給与保障をしろ、ということみたいなのよ。　それに自分から辞めたんじゃあ、雇用保険がすぐには下りないから解雇されたことに持って行きたいらしいのよね。　それで　店長のせいで辞めなくちゃいけなくなった、って。」

　う〜〜む。　私の理解の範疇を遥かに超えている。
　遅かれ早かれ、どの道辞めるつもりだったにせよ、どうせなら穏やかに辞めればいいと思うんだが、彼女の考え方では、
　　どうせ辞めちまうんだからいいたいことを全部ぶちまけてやる！！
ってところか。

　とにかく、空恐ろしい人間の一部を垣間見たわけで、当分若い子たちへの偏見が残ってしまうワタクシでありました。