店長の穴

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エピソード１７　善人仮面激怒す

　私は職場では、普段何があっても怒ることは無い。
　なぜなら職場には常にお客がいるし、しかもサービス業。　それに加えて私は年長者でチーフ。　若造のやることにいちいち目くじら立ててたら仕事が立ち行かない。
　それなのに、それなのに・・・。

　ハナシはとてもややこしい。
　時々出てくる「F屋」とうちの店とは簡単に言うと「姉妹」のような関係にある。　オーナーが一緒で店長も一緒。うちの店長は「Ｆ屋」の店長でもあるのだ。
　さてその「Ｆ屋」のチーフ的立場にあるフリーターがどうやら辞めるらしい。　で、うちのフリーターＡがF屋に移動したいと店長に「自己推薦」をしたのだ。

　詳しいやり取りは思い出すだに未だに胃のあたりがムカムカするので割愛するが、要するに週末ごとに忙しいうちの店から「脱出」して、力仕事の少ない楽できれいなF屋に移りたいということなのだ。
　私以下、他のフリーターの逆鱗に触れたのは彼女が発した一言だ。

　「こっちが忙しいとき向かいのF屋から高みの見物を決め込みたいから〜〜。それに生活に変化が欲しいし。」

　ふざけんな、ってことだよね。　楽がしたいのはみんな同じ。　思うのは勝手だが、口に出すなってこと。
　しかも、店長には「両方の仕事がこなせるから、一人二役ですよ。」　といっておきながら、「F屋に移ったら、こっちの仕事なんかやらないよ。」　と私たちには堂々と宣言している。
　うちの店のシフトがぎりぎりなのは彼女も十分承知していての発言。「辞める」ならまだしも、「楽がしたい」「気分転換したい」の理由での転属願い。

　さすがの私も、
　「移るのは構わないけど、
　（どうせやる気なくなったんだから嫌々仕事されてもな〜〜）
　せめて次の人が決まるまでは賛成できないな〜。店長はもうOKしたの？無責任だな〜。」
　店長に直談判しかねない私の勢いに、フリーターAのストップがかかる。
　「店長から話があるまで知らなかったことにしといてくださいよ〜。」
　「？？　個人的なことならそれでもいいけど、店全体にかかわることだからね。」
　「でも、順番ってものがあるでしょう？　しろさんがこういってましたって店長には私から話しておきますから。」
　しかも自分が抜けた後のシフトの指図までするにいたって、さすがの私の忍耐糸も　「ぶちっ」　と音がして切れたのだった。

　彼女の言う「順番」とは、店長と彼女との話がうまくまとまって、事が決定した後にしてくれと言うこと。　店長にしている「話」　と私たちにしている「話」　が微妙に違っていることが店長にバレるのがまずいということなのだ。
　以前から、私の話したことが「伝言ゲーム」のように、途中から違うことになって他の人に伝わっていることがあったのだ。
　この場合、一体どういう風に店長に話すつもりなのか。

　「私もそこまでお人善しじゃないからね、伝えたいことは直接店長に言うよ。」
　若干怒気を含んだ私の言葉にさすがに絶句。
　大人気なくも怒りが露になってしまったのだが、そこは「仕事場」と割り切って、その後その話は一切していない。（現在もだ）

　最近の若いモンは・・・とまたぞろいつものフレーズが出てきそうで嫌なのだが、結局　「自分さえよければ」　ということなのだろう。
　まあ、私だって少なからず例外ではないので大きなことは言えないが、思っていても周りに気付かせない程度の配慮は必要なのではないだろうか。

　社会人としてね。